武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

映画・ドラマを観る<4>

●映画『舞踏会の手帖』(昭12)
若き日に舞踏会で踊った男達を訪ねて回る未亡人。以前観た時は男ってダメだなと思ったけど、もしや翻弄され疲弊してるのは女の方?という気も。回想或いは妄想?の舞踏会シーンの美しさと、今にも崩れそうにユラユラしてる医院での一幕の不気味さが、何度観ても素晴しい。

●映画『巴里の屋根の下』(昭5)
トーキーなんだけど、半ば無声映画。音楽や汽車の音、硝子扉の向うにまぎれる人々の言葉や心は、皆バカみたいに単純に見えるが、実は想像もつかぬ駆け引きや狂気を孕むような気もして面白い。地上から屋根まで(クレーンで?)撮るアパートの群像をもっと見たかった。

●映画『クリスタル殺人事件』(昭55)
アガサのマープルシリーズの映画化、であるが、はっきり言って事件よりも、劇中で架空映画を撮影するチームの有り様、殊に二大女優の確執に眼を奪われる。精神を毛羽立たせたリズも良いが、これ見よがしの躯すべてで動的にヒールを演じるキム・ノヴァクが素晴しい。

●ドラマ『アイフル大作戦』(昭48)
プレイガールの二番煎じかと思いきや。ほぼ独りで色香、スタイルを問われるファッション、舞台ばりの長台詞をこなす(全体的に演劇風味)、小川真由美の輝きたるや! 対する男達はおマヌケで妙に生臭く、よろしい。メイン脚本は小山内美江子、構成は佐藤純彌深作欣二

●映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破・Q』(平21・24)
そうか。TV時代より尺が短いのだからどうしたって削られる人物描写等ある訳だ(まして新キャラもいる)。アノ人のアレが無いのは淋しい……と思いつつ。鑑賞後は重い気分になったものの、思い起こすと結構おふざけしていた箇所が後から笑えてくる。


©️2021TSURUOMUKAWA

音楽を聴く<13>

●斉藤とも子"20ANS"(昭56)
大村憲司林哲司瀬尾一三といった当時では最先端?の布陣で丁寧に造られている。独り言のような歌声はニュアンスがきっちり拾われ花ひらく。不似合いに思える快活な曲でもチャーミング。斉藤本人撮影によるメンバーのスナップもあり、きっと楽しかったんじゃないかと思う。

中原理恵"KILLING ME"(昭53)
B面は『東京ららばい』等の筒美京平ディスコ歌謡。世間のイメージする所。
A面の研がれ加減に驚く。山下・吉田・坂本・清水靖晃……端的にパッケージした印象のB面と較べ、時間も長いように錯覚し、琥珀の海にでも浮かぶ気分となる。歌声も伸びやか且つ涙交りで堪らない。

中村晃子ジェーン・バーキンみたいだね』(昭52)
作曲は高田弘、杉本真人、長戸大幸。色気は意外と控えめ? 曲のジャンルは多彩だが言葉の畳み掛けとか和製フォーク要素が強め。声も森田童子や浅川マキぽかったり。高田によるソウルなインストが唐突だがカッコいい。こういう曲でも歌って欲しかった。

玉置浩二"All I Do"(昭62)
ソロ1st。松井五郎と1対1のタッグでより内へと潜り情緒露わ、且つ風雅、且つアクティブ。エロスもより深く……メリハリ効いた曲順が、情事の最中、事後、始まりを、フラッシュバックで延々ループさせるかのよう。ゾクゾクし、目眩がする。ラストの子供コーラスさえ、狂気。

萬田久子『夏の別れ』(昭56)
主演映画に沿い作られた(サントラではないみたい)。安川ひろしと倉田信雄による心地好いボサとフュージョンに、萬田の弛緩して虚ろな歌唱と台詞が凭れる。相手役の男の喋りだけ熱っぽい。作詞は脚本の中島丈博と、三浦徳子。三浦の「愛はふいに岩をも砕く」って詞に驚愕。


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音楽を聴く<12>

おニャン子クラブ"Circle"(昭62)
2枚組1枚目は、ソロデビュー組未発表曲(秋元康ノータッチ)をデビュー順に。こうして振り返ると当人のキャラクターと作家陣による世界観が順序も含めちゃんとメリハリ効いていたなと思う。滑らかな裏声は誰?と思えば内海和子。シングルでも活用すれば良かったのに。

原田知世『恋愛小説3~You&Me』(令2)
慎ましいジャケ写の印象よりも花は繚乱咲き誇り、果実は豊潤で芳醇。カバー集だが塗り替える力強さと快い脱力加減があり、愉しげ。大瀧→大貫→ユーミン→坂本というフルコースの前半には終始酔わされ泣かされる。特にストリングスの絡め方が艶かしく、優美。

斉藤由貴『聖夜』(平4)
クリスマスに観たDVD。確かWOWOWで放送した後ソフト化されたもの。ホールライヴであるが、無観客(!)。代表曲は殆ど歌わず、内面と向き合う一人芝居風な、ややデカダン寄りな選曲で綴る。30年近く前ながら、奇しくも今また新たな感慨を覚えた。ヴァイオリンに斉藤ネコが参加。

柏原芳恵"LUSTER"(昭59)
この人の歌は基本芯がありつつ、意図か天然か、よろめきを垣間見せるとこが魅力だと思うのだけど。テクノポップ(!)の楽曲、殊に短調のナンバーは不思議に寄り添い、妖しさを一層引き立てている。どんな清らで明朗な言葉も、あられもない艶姿で言ってるような気がしてしまう。

小川知子"Milky Way"(昭48)
作曲家3人の方向性が見事にバラバラだが、なかにし礼によるデカダン薫る糸で綺麗に編まれ、歌唱もまた消え入りそうな儚さから、音が割れる程の絶叫まで、見事に応える。可愛いジャケ写に反し船酔いするほど揺さぶられた。私的には三保敬太郎によるボサ『女の館』がベスト。


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映画・ドラマを観る<3>

映画『東京の女』(昭8)
短篇ながら重く、でも無声ゆえ淡々として。
独り洋画な江川宇礼雄、独り和風な田中絹代、間をゆく岡田嘉子。バラバラなピースがシュールさを生む。
筋書きを逆に飾りとするかの如く、時計店?で掛け時計が並ぶ中電話を借りる田中、酒場での気怠げな岡田のシーン等が焼き付く。

映画『朝の口笛』(昭32)
題もキャストも地味だけど、まさにアイドルドラマでトレンディドラマ。マスコミ業界、空港、スケートリンク、鎌倉ビーチ、オープンカー、激しいジャズダンスを踊るホール…さほど笑えぬ小ネタの畳み掛けも御愛嬌。沢村貞子が着物でバイクの後部席に乗るのはちょっとヒヤヒヤ。

ドラマ『素晴らしきかな人生』(平5)
キャラがクドくて話も詰め過ぎだけど、補って余りあるエッジきいた演出が所々に。バーの場面なのにバーを一切映さず男女のアップだけ舐め撮っていく、だとか。夏のドラマだったが、光やカメラの動きがまさに夏そのもので、役者たちを粘っこく引導し落とし穴へ。

映画『夜霧よ今夜も有難う』(昭42)
二谷英明や郷鍈治が東南アジア人! ブレイク前の梶芽衣子が小娘! 浜口庫之助先生も「コンガを叩く男」役で一瞬登場!
と、愉快な映画(あれ?)。「裕次郎ファン男女共に喜ばせねばならぬ」という苦心が伺える内容。浅丘ルリ子は二谷との2ショットの方がグッときた。

映画『ポリー・マグーお前は誰だ?』(昭41)
トップモデルのお話。誰であろうがどうでも良く誰であっても素晴しい。特定ブランドの絡まぬ冒頭のファッションショーに圧倒され。以降ランウェイは無いけど、一応は日常である時間や風景にしれっと流れこむ、奇異な模様、かたち、化物たちの生態が芳しい。


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映画・ドラマを観る<2>

●ドラマ『シャツの店』(昭61)
山田太一脚本、鶴田浩二の遺作。厳格そうなシャツ職人と思いきや、妻(八千草薫)に逃げられ見習い(平田満)に依存するわ、酔ってホステスの胸を揉みまくるわと、イメージに無いダメっぷりを見せてくれる。なんとスナックのカラオケで本人が代表曲を歌ってくれる場面も。

●映画『二人だけの砦』(昭38)
任侠譚か?団地の群像劇か?……結局は定義づけられぬ渋谷実監督の珍品。役者全員、奔放に一人芝居してるみたいなバラバラ加減は、世相を丹念に斬るようでも、孤高のユーモアを積むようでもある。ミヤコ蝶々の達者ぶりもアイ・ジョージの唄も、総て同等なパズルの1ピース。

●映画『青春怪談』(昭30)
太字で描いた風なキャラ描写。乙女全開な轟夕起子も怪演だが、三橋達也北原三枝のクールな美男美女を越え白く骨ばった霊みたいな風情もよろしい。ハイカラな三橋の自宅や、戦後十年の浅草など景色も趣深い。因みに原作は獅子文六、別会社による映画版も同日公開だったとか。

●映画『若き日のあやまち』(昭27)
この時代の妙に大人びた或いは老成したルックスや所作の女学生・教師の像って、何とも趣深く厳粛で奇怪でユーモラス。本作は題の通り、厳格ゆえ?男女共貞操の面がヒビ割れスリリング。風俗街の描写も面白かったが、婦人向けの性指南的な雑誌があったのにも驚き。

●映画『歌え若人達』(昭38)
流石は木下恵介監督、色んな意味で棒読みな暮しぶりの男子寮生たちをチャーミングに描く(脚本は山田太一!)。一枚上手な冨士眞奈美倍賞千恵子も良い。ケータイがなくとも「○○さんお電話(又は電報)です」と若水ヤエ子が放送で報せてくれます。スターも数多くカメオ出演


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映画・ドラマを観る<1>

●ドラマ『岸辺のアルバム』(昭52)
山田太一の代表作ながら、私は「妻の不倫と水害」しか予備知識なく。キャラ達の存外ヘビーな設定のミルフィーユがずっしりくる。でもジャニス・イアンの一見優雅だが端々でふいに感情が荒立つ主題歌と最も共鳴していたのは、やはり妻役の八千草薫であるように思えた。

●映画『マックイーン モードの反逆児』(平30)
コレクション映像、ワザと粗くしてる?
古典への敬意もあったと思うので、観ていると彼って何時の時代だっけ?と錯乱。パラレルワールドを無数に持つ人物にも思えた。別の世界では今もギリギリの、若しくは円熟したパフォーマンスを見せているのでないか。

●映画『華麗なる闘い』(昭44)
岸惠子・内藤洋子主演のファッション業界物。演技や展開が淡白で話が入ってこないが、イメージビデオ的な画作り、当時のモードの泉に溺れる。トリッキーなファッションショーにも引けをとらぬ岸惠子の存在感たるや。アンドレ・クレージュのミニスカワンピも皮膚とする。

●映画『劇場版パタリロ!』(令元)
原作の結構マニアックなエピソードが数多く詰め込まれ、一見さんには厳しそうだが往年のファンには嬉し可笑しい。あの作風を実写で生臭く見せることには賛否ありそうだけど、加藤諒パタリロ始めバンコランにマライヒ、タマネギ部隊など、なかなか健闘したのでは。

●映画『拳銃王』(昭25)
西部劇だが絢爛なファイトは一切ナシ。早撃ちガンマンとして悪名を馳せてしまったグレゴリー・ペックが愛する女のいる街に戻って大騒ぎとなるのだけど。銃に麻痺した社会ゆえか男達も御婦人方も子供も危機意識が薄く、スターか珍獣でも来た風な浮かれ加減も微妙にあり、奇妙。


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私的すたんだーどなんばー<玖>マルタ・アルゲリッチ『ラヴェル:夜のガスパール/ソナチネ/高雅で感傷的なワルツ』(昭49)

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<ピアノソロ集。'74年ベルリン録音>

「歌声は同じものを一つとして持たない物質」という話を先刻したが。
楽器だって、身体を鳴らす訳ではないけれど、アルゲリッチラヴェルなんて域ともくれば、ピアノを弾く奏でる叩くといった概念を超えた、もはや自然現象とも感じられる。

クラシックの演奏家を思うと私は、なんとなく渡り鳥を連想する。生きる限り、片道4,000~5,000キロとかを、海や空や天敵等に翻弄されつつ往復する、仮に仲間が脱落しても救わない救う術のない(逆も然り)、群でいながら孤独な鳥。本当はそこまでシビアに生きなくたって、安住できる手段もあるだろうに。

そんな不可解さもふくめて、自然現象なのだと思う。ヒトがいつの時代から聴き手の心を動かすプレイをするようになったかは知らぬが、「そこまでしなくたって」という次元は、文明の発達とは必ずしも比例せず、鳥が行くべき彼方を見出だし飛翔したのと同じ、至極シンプルな宿命だったのだろう。

むろん私は彼等と知り合いでも何でもないので、弾き手の苦悩とかを何ら気にかけることなく只「現象」に圧倒されっぱなしでいられる。それって当り前なようで、お幸せですこと、なの、かも。

クラシックを聴きはじめたのは、中学のとき、男の友人がピアノを弾いていたから。民家に於いて初めて見たグランドピアノによる、ムソルグスキー展覧会の絵』の有名な冒頭だとかを、私は床で胡座をかき聴いたというか、震動を感じた。はじめて生で間近で感知したという意味ではあれも、「現象」だったと言えようか?
まぁ実際のところは、それほど大したポテンシャルも音楽への志しも、彼にはなかったのだろうけれど。いつしかピアノを離れ、ふつうの大学に推薦で入り、そこを1年で辞め、やがてどこで何をしてるかも掴めなくなった。

そんな、渡り鳥になれなかった(ならなかった)彼のピアノの影響かわからないし、彼から借りたのはアシュケナージか誰かによるショパン1~2枚だけ?だったけれど。孤独でシビアな渡り鳥の美しさを、知る大きなきっかけとなったのは確かだ。未だにクラシックのCDを選ぶなら選択肢はピアノソロか、なるべく少数の室内楽曲のみ。
このアルゲリッチラヴェルに出会ったのは大学時代だったと思うが、私の中では不動ベスト1の「現象」である。


©️2020TSURUOMUKAWA