武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

私的すたんだーどなんばー<弐>松任谷由実"VOYAGER"(昭58)

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<15枚目のオリジナルアルバム。ユーミンは始めからベテランだったように思ってしまうけれど、この時はまだ20代だった。原田知世に提供した『時をかける少女』『ダンデライオン』も収録>

1曲目『ガールフレンズ』の時点で、完全に虜に。
何このイントロ、声、メロ、転調……と、いちいち目を丸くした、あの日は忘れ難い。

今でも疑問に思う。これほどエッジの研がれた人物がどうして、長きにわたり国民的アーティストなのだろうかと(むろん、悪い意味ではなく)。

さておき、このアルバムに触れたのは小学校最後の夏休みだったか、祖父母の家に於いて。旧い日本家屋なのだが、増築された洋室が2階にあり其処で、聴いた。
今思えばあの部屋は60年代後半あたりのテイスト? 絨毯は緑で、クローゼット、棚、ステレオ、レコードプレイヤー、洗面所(個室に洗面所があるのを初めて見たし、以後も見てない)は総て艶めく黒。室内はリビングとベッドルームで分割されていたが、分けるのは壁でも布でもなく、螺鈿のようなキラキラしたちいさな長方形の板を繋ぎあわせた、キャバレーの幕にでも使われそうな長い永いカーテンで……基本的にそこは遠方の叔父一家の泊まる部屋だったが、彼等が帰った後に独りきりで泊まったりもして、ユーミンの音楽と共にラグジュアリーな時間を、子供の分際で過ごしていたわけである。

もう、家はとっくの昔に取り壊されてしまったのだけれど、"TYPHOON"の歌詞などに登場する部屋は、私にとって永久に、あそこなのだ(ちなみに、『時をかける少女』に嵌まりそうな庭もあった)。

そんなこともあってか、私はこの盤を愛しながらも、一度も手元に所有したことがない。


©️2020TSURUOMUKAWA