武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

私的すたんだーどなんばー<壱>寺尾聰"Reflections"(昭56)

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<『ルビーの指環』"SHADOW CITY"等を収録したオリジナルアルバム。それまでとは真逆とも言える都会的でハードボイルドなAORへの方向転換は、役者業における刑事役とのリンクもあったのかな(因みにジャケ写はドラマ収録中に撮影所の廊下で撮ったのだとか)。所属事務所からは危惧もされたそうだが結果は大好評、200万枚近く売り上げ年間でも1位となった>

生まれて初めて惚れ込んだオトナの音楽。小学2年の時に父が持っていたカセットを私物化し、家のラジカセでテープが伸びるまで聴いた。
もちろん歌詞を咀嚼していた訳はなかろうが、思い起こすと何故か当時通っていたスイミングスクールの、デザインがわりあいモダンなプールの青い水の揺らめきが偲ばれる。海はあってもプールの曲は無かったと思うけども……それなりにムードを感じとっていたのか。

……しかしそののちパタンと、没交渉。彼に限らず男性ボーカルの類に惹かれることも殆どなく。CD化された際には一応入手したが、20年は仕舞いっぱなしだった。あの、元に戻そうとするほどに伸びたテープの舞は、幻? それとも、熱病の如く流行りに惑わされていただけ?

ちょうど当時の彼ぐらい? 十分過ぎるオトナの齢となった頃だったか、ようやっとCDケースを開き聴いてみると、「俺なのサ」「忘れないゼ」とかいう詞が少々むず痒かったりしたものの、AORならではのコード進行とか、無闇に盛り上げず冷静で享楽的でメランコリックなままでいる感じとか、明言がなくとも背徳を薫らせるストーリーテリングとか……あれ? 今でもこういうの好きなんでは、と気づいた。

そして、あの声だ。"Reflections"のプールに泳げるのは、後にも先にも、彼しかいないじゃないか、と、思い出した。
寺尾聰の歌とメロディ、井上鑑のアレンジは、先天か後天かわからぬが、自分の音楽DNAにインプットされていたらしい。7歳の自分が選んだ男は、ヒゲダンスを踊る加藤茶志村けんでなく、ドラえもんでもなく(どちらも何故かレコードを持ってた)、やや斜に構えた方向から、哀しみを浴びた彼等だった。「世界一好きなアーティスト」というのとはちょっと違うけれど、音楽という次元の門を日々くぐる際、そこにはまず青い水の揺らめきがあるのだ。


©️2020TSURUOMUKAWA