武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

私的すたんだーどなんばー<参>矢野顕子"HOME MUSIC Ⅱ"(昭55~62)

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<80年代、つまり坂本龍一との共同プロデュース期(ほんとに'80~'89年だったみたい)のベスト盤。ラインナップはおなじみ『春咲小紅』や『ひとつだけ』の他、佐野元春とのデュエット『自転車でおいで』、アルバム未収録のシングル『愛がたりない』等々>

矢野顕子を初めてちゃんと聴いたのはこれか『峠のわが家』だった。

中学生の私にとって矢野さんは、壮大でシュールで、且つ不思議な親近感や痛切さを覚える、ファンタジー御伽草子であった。他のどんな本や映画等よりも濃密に、しかし尻尾か耳でも揺らす風に飄々と、息づいていた。
それは、これより以前の矢野誠プロデュース時代も、以後の完全セルフでも芯はそう大きく変わらないのだけど、この時期の、冷徹な構築と衝動的な?破壊で世界を拓く教授と、朗らかでたおやかで、しかし牙をむき哭き震える野性を失わぬ矢野さんによる音色・感触は唯一無二で、私にはたぶん今後もずっと、初恋にも似た想いを寄せる異界、かたちのない故郷、タイトル通りホームなのだろう。

にしてもこの盤、誰による選曲か知らぬが比較的初心者でも取っつき易くまとめられていると思う。ベストに起こりがちな作風のバラつきもあるにはあるけど、それが却ってドラマチックな印象を与えているし、音のテクノ要素とアコースティック要素、トンガった曲と円みある曲とのバランスも程好いのでないか。これがダメという人は、他のどれ聴いてもダメ、かも?

あと、然り気無く泣かせにかかったラインナップだな、とも思う。少なくとも私は、今でも充分涙する。

矢野さんのこの時期のビジュアルも、すこぶる好きである。シックで、色っぽい。
"Watching You"のPVとか、オススメ。


©️2020TSURUOMUKAWA