武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

私的すたんだーどなんばー<捌>ジェーン・バーキン『ロスト・ソング』(昭62)

f:id:mukawatsuruo:20200714172436j:plain
<女優・モデルでの活躍と同等か、ひょっとすると日本ではそれ以上に歌手として名を馳せた稀有な存在。セルジュ・ゲンスブールと組んだ6枚目のアルバム>

小林麻美よりも早瀬優香子よりも、バーキンを知ったのは後だった。
高3のとき、某アーティストインタビューの「この曲はバーキンみたいに歌いたかった」という言葉だけをたよりにレコード店へ行き、声さえ知らず、買った。結果もちろん一耳惚れ。
あのきっかけを逃していたら、ウィスパーのミューズをもしや今も知らずにいたか?

歌声って物質なんだ、ということをいちばん教えてくれた歌手だと思う。誰一人としておなじ楽器(喉)は持っていない上に、各々のバックボーンや新たな出会いでケミストリーが起こる、そういうものだと。
バーキンを語る上でたいていの人は「歌唱力は……」と付け加えるが、私は「こんな巧い歌手はいない」と、今でも思っている。まぁ正確に言えば、「こんな素晴しい物質はない」だけれども。'68年ゲンスブールに見出だされて以降、半世紀過ぎた今なお、単に懐メロ歌手としてだけでなく求められてやまぬ、物質。

はじめに聴いたのはベスト盤だったが、敢えて選びたいのがこのアルバム。
バーキンはさておきゲンスブールの楽曲って、「フランス70'sの輝き若しくは燻り」みたいなイメージを抱きがちだが、実際はセルジュが亡くなる前年('90)までバーキンとのタッグは続き新作リリースもあったわけで。『ロスト・ソング』も'87年、曲こそシャンソンか小唄チックな短い小節によるコーラスを呪文の如く呟きつづける手法はそのままだが、アレンジでエレキギターかき鳴らしてロックしたり、キーボード主体でアーバンなAORしたりもちゃんと(?)やっている。
バーキンもまたジャケ写のビジュアル(どれもバストアップだが)において、1作目から年代順に並べたら半ば別人みたいにムードを変えているし(本作と『バビロンの妖精』はまさに「ザ・80's」って顔してる)……今となっては世界の名画も同然の普遍性を薫らすあの二人も、目まぐるしく移行する時代を、手を取り合い、ニコニコかフラフラかハラハラかオロオロかわからないけれど、渡っていたのだと気づく。

私的にはこのアルバムあたりの、ちょっと賑やか過ぎる感じが却って、バーキンの囁き或いは喘ぎの闇夜めいた芳香を、呪文の効果を高めているようで、好きなのである(ただ、ライヴだとしっとりしたアコースティックがやはり似合うかな、とは思う)。


©️2020TSURUOMUKAWA