chailulu"segno"(平28)
ボーカル・ギター=結美
サックス=長谷川和彦
フルート=森本優子
トロンボーン=五島健史
ピアノ=樋上千聡
ベース=李庸恩
パーカッション=西村コージ
ギター=カオリーニョ藤原(ゲスト)
ボサノババンド・チャイルルの1st。ジョビンのスタンダードの他、日本の楽曲も。
ボーカルの結美さんは随分と前から知っている。出会った頃は佇まいもふくめまるで声変わりしていないおとなしい少年のようで……しかし独自の感性は、もう既に針の方向をしっかりと定めていた。
それから何年か会わぬ間に彼女はボサの本場ブラジルに赴き音楽や言語をふくめた空気に触れる等々を経て……久々観に行ったライヴでは一層芯を逞しくし且つ柔らかさを湛えた、だいぶ歳上の筈の自分よりはるかにスピリットが成熟した女性になられたように見え(いや実際そうだろう)驚いたものだ。
今回の録音では唄のエフェクトが、通常の紗をかける役割というよりは逆に、まるで灼熱の陽に照らすかのように声のハスキーさや鋭さを前面に出していることも相乗効果となったのか、最早かのナラ・レオンと肩を並べる貫禄と厚みを感じ圧倒された(まぁナラも『美しきボサノヴァのミューズ』を出した当時あれでまだ30手前だったのだけど)。
さて演奏はと言えば、ナラ『美しき~』のすきま風ふく哀愁やクールネスとは違い、ジョビンファミリーみたいな包容力と温かさを主軸にしている。殊にやっぱりジョビンの楽曲においては癒しを得ると言うより、種々の花が咲く生垣やマジョリカタイル壁で造られた大規模な迷路で青空を浴びながら迷わされるかのような、アトラクション的愉しさを覚える。"Frevo de orfeu"の躍動感が特に好き。楽器のアドリブをもっと長い時間聴いていたかった。
そうかと思えば一方で、石原裕次郎『夜霧よ今夜も有難う』や、荒木一郎×武満徹の『めぐり逢い』では、メロディだけでなくコード進行も比較的素朴に、しっとりした昭和日本'70sあたりの空気感を体現してたりするのが興味深い。そこに結美さんの日本語ボーカルはやはりエトランゼに映るものの不思議と浮くことはなく、却って巷に溢れる歌い方よりも、泣かせてくれるのですこれが。
聴くタイミングによって、ハイライトと感じる曲が変わるアルバムかもしれない。心を躍らせたいとき、サウダージに浸りたいとき……いずれにも応えてくれる。
結美さんのライヴにおいて、
https://balancoyuu.exblog.jp
または発売元のおーらいレコードに問い合わせれば購入可能かと。
https://ohrairecords.wixsite.com/home
©️2019TSURUOMUKAWA