武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

音・人・旅"Glocal Happiness Departure"(平28)

f:id:mukawatsuruo:20190909125645j:plainギタリスト荻野やすよしさん全作曲・プロデュースによる「音・人・旅(おとなたび、と読む)」のアルバム。
インストは歌よりモノを言う、かもしれない。

私事だが、外出先、近場をうろつくにも旅行するにも、決して音楽プレイヤーは持参しない。そこでの景色と楽曲とがマッチするしないに拘わらず一度でも重なり刻まれてしまうと、これがそうそう剥がれてはくれないからだ。
音楽は形あるような無いようなイメージ、視覚というより脳内であらわれるきれいな或いは穢れた色の粒やグラデーション、またはぐちゃぐちゃに使い込んだパレット並の混沌であってくれた方が良い気がする。おなじ曲でも聴くタイミングによって異なるものが浮んだって構わない。

さてこの盤は存在からまさしく絵の具がいっぱいと言おうか、なかなかの大所帯。ギターとベース(アコとエレキ両方)に加えウード(アラブ音楽系の弦楽器)、ドラムの他にダラブッカ(アラブ、トルコ音楽系)とアフリカンパーカッション、サックス(ソプラノ・テナー)とトランペット、チェロにヴィオラにヴァイオリン……ステージで呼び集めるのもなかなか困難であろう面々が、贅沢に(曲により編成は異なる)。

ムードを比較的一貫させた聴き易いナンバーも勿論、豊潤で素晴しいのだけれど、個人的には時間も長く構成も奇っ怪で、楽器が交替でソロパートをとるたびにテイストが変わるかのような、意図的なヘルタースケルター、パレットの混沌を見せた曲が特に大好き。"S16"とか『果て。』とか『地球人が宇宙人に見つかった日』とか(タイトルから既に良いでしょう?)。ボーカル的な役割を担うヴァイオリン属や管楽器の歌うと言うより長台詞をあらゆる階調で喋り尽くす役者たちみたいな有り様が堪らない。
対して荻野さんのギターは意外と冷静に全体を俯瞰したり支える(カントクのような?)様子であるのもまた興味深い。

そう言えば曲毎に荻野さんによる短いエッセイも付いているのだが。聴き手にイメージを強要せず想いの総てを明かしもせず、実にうまい距離感、且つ中身の熟した内容。曲を聴きながらでも、まったく無関係に読んでも楽しめる(アートデザインも同様に素敵)。

今すぐに聴きなおすも良し、または時を経てから、最初とはきっと違う色を見せてもらうのも良し。歌よりモノを言う盤である。

'19年9月現在アマゾンで購入出来ます(検索は「荻野やすよし」でした方が速いかと)。


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