武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

シオン"Afternoon nap"(平30)

f:id:mukawatsuruo:20190909124608j:plain関西拠点にジャズ・ボサノバ・オリジナル曲で御活躍のボーカリスト、シオンさん初のアルバム。スタンダード6曲をピアノの石川武司さんがアレンジ。ギター上川保さん、チェロ成川昭代さん。

ライヴに幾度か行かせて戴いているが、こうして音のみで触れてみると、シオンさんらしいストイックさがより一層凝縮されているように感じる。
リー・ワイリーのような折目正しさと品格、ブロッサム・ディアリーのような包容力と愛らしさ、ボサノバ歌手のような力の抜け具合と哀感……似てる・真似ているいう意味ではなくて、各種のスピリットが彼女ひとりの中に、詰めこみすぎず、と言うか寧ろ身軽に、ある。

主にジャズ響く空間にいてテクニカルでアドリブが日常のミュージシャン達と組みつづけていると、特にそういうポリシーなくとも歌唱法をこねくり回したり、音域を必要以上に広げてみたくなったりだとかいう誘惑に駆られないものかな?と思うけれど(例に挙げるほどの立場でないが私はそういうの多少、あった)、シオンさんのスタンスは動かない、どころか逆にぎりぎりまで削ぎ落としてゆく印象。それでいて魅力が少しも損なわれぬ、もはや「歌」という言葉の括りでさえ野暮に思える姿は、さながら尼僧の祈りの如くあまりにも無欲で凛としていて、まぶしい。

共演はきっとピアノのみと勝手に思っていたのでワリと多めな編成には驚いたが、此方もまた無駄な音ひとつ感じさせない。それはボーカルと同様かひょっとしたらもっとシビアで、華美に塗りたくらず数えられる程度の描線だけで表現する難易度の高さが求められるのではないか。
特にチェロという「人の声に近い」とよく言われる楽器、ボーカルと絡めばデュエットに近い状態になり、悪い意味で相殺が起きる可能性もある中、さながら空とそれを映す湖面のような絶妙なバランスでまとめられている。

"Afternoon nap"、「午後のまどろみ」というタイトルだが、聴く前より目が冴えてしまった。

統一性を意識してかオリジナル曲を録音しなかったのは勿体無い……と思っていたら、纏めた盤を今年リリースなさったそう。
('19年9月現在"Afternoon nap"はアマゾンで購入出来ます)。


©️2019TSURUOMUKAWA