武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

映画・ドラマを観る<6>

●映画『8 1/2』(昭38)
カメラは止らず、主人公を軸に、いや時に外し、近辺・夢想・過去で生きる者達を光と影に踊らせ、喋らせる。後半分り易く「夫婦」に焦点が合うが、それ以外の混沌が美しい。美女もデブも老人も、皆同等に脚光を浴び脈打ち、魅惑的。
「白」の場面が印象深い。変なサウナ?とか。

●映画『ダイアナ』(平25)
亡くなる迄の2年間が描かれる。
別居していたと言え、近所マラソンしたり「パレスは遅くまで開いてるわ」って連れ込んだり、本当にああも自由だったのか?? 序盤はまるでSATC。
享楽に耽る人、職務をこなす人、孤独に狂う人、追われる人……ぜんぶが別の人間みたいに思える。

●映画『ガス燈』(昭19)
サスペンスに誘う側のボワイエ誘われる側のバーグマン、他に替われぬベストなカップリング。役者もさることながらカメラの動きや光加減がいちいち不穏でムーディ。
字幕を読むの忘れるほど衣裳も目を奪われた。バーグマンに留まらず周りのオバサンやメイドまで、かなり飛んでた。

●映画『哀愁』(昭15)
ヴィヴィアン・リーの目線で居続けるのがやや窮屈ではあるが、音楽に上手く乗せられる(なんかベタな曲が多いけどアレンジが良い)。
リーは陽から陰まで広く見せる役柄。バレエの舞台も愛らしかった(本番中に私語言ってて笑った)けど、やさぐれた時の目つきが、やはり本領かと。

●映画『若草物語』(平6)
5度目?の映画化。展開が唐突すぎる(お馴染みジョーのアレとか、きっかけから1分位でやっちゃうし)が、少女達の一触即発・不安定とリンクする感じが良い。ビジュアルは見応えあり、パーティーとか、成長したエイミーの装いとか、オペラを「あんな所」で観るのとか、印象的。


©️2021TSURUOMUKAWA

音楽を聴く<16>

斉藤由貴『水響曲』(令3)
代表曲を御本家・武部聡志によりほぼ生楽器でリアレンジ。底にあるものは変らず、厚みある懐かしさが胸を熱くする。歌声はややハスキー? 芯ふくよかでいて、初々しい花弁と枯葉の魅力を併せもつ。儚く強く、芳醇で哀切。あまり好きでなかった曲でも、見知らぬ側面が芳しい。

渡辺満里奈"Mood Moonish"(平3)
エドツワキによるビビッドなアートワークと、松本晃彦による重厚な編曲とで拓かれる異空間を、ウィスパー寄りの歌が旅してゆく。私的には甘くもシニカルな『キス・キス・キス』とか、明瞭なメルヘンでもカワイイでもない独自の世界観を築いた『夜間遊泳』が好き。

今井美樹"Premium ensemble concert"(令2)
弦楽アンサンブルと組んだ35周年ライヴ。アルバムも出たが、未収録の映画チックな『年下の水夫』『半袖』『野性の風』が嬉しい。一見不似合いそうな『彼女とTIP ON DUO』も実にいい。「弦楽=ヘビーな楽曲」ではないよと、円熟の歌声と共に腕を広げ教える。

鷲尾いさ子『彼女の風/20才のデリカシー』(昭62)
一人のモデルを恍惚の歌姫にしてしまった。
楽曲は無人の聖堂、言葉は美麗なタイル。女は誰も求めず裸足で歩み又は浮き、タイルを掌で弄び整然と合せきらず、空間を一層シュールに飾る。
編曲は萩田光男と山川恵津子、作詞は川村真澄、石川あゆ子他。

小泉今日子『唄うコイズミさん』(令2)
配信ライヴ。近年舞台に力を入れているからか歌声も昔よりハリがある。『あなたに会えてよかった』なんて当時の3倍ぐらい響いてきて、涙。
全編ピアノ&ギターでオリジナルを忠実になぞりながら、「はいから人魚のイントロかっこいい」とか気づかせてくれる。


©️2021TSURUOMUKAWA

ユーチューブで音楽。

ユーチューブに自身のライヴやセッション、宅録等を気まぐれに載せております。

https://www.youtube.com/channel/UCw3leKuFjz8mBxI8Ld4UR_A

現在の曲目はこちら。

①『6番目のユ・ウ・ウ・ツ』【Remix】/つる緒(唄)+境知成子(鍵盤)

②『メランコリー』【Quartet ver.】/つる緒(Vo)・境知成子(Pf)・飛高聡(Bs)・村口桂一(Ds)

③"THESE FOOLISH THINGS"【Quartet ver.】/つる緒(Vo)・境知成子(Pf)・飛高聡(Bs)・村口桂一(Ds)

④『私は女』/つる緒(唄)+境知成子(鍵盤)

⑤『夜霧よ今夜も有難う』/つる緒(唄)+上村美智子(鍵盤)

⑥『バレンタイン・デー』【radio flavor】/つる緒(唄)+上村美智子(鍵盤)


©️2021TSURUOMUKAWA

映画・ドラマを観る<5>

●映画『レベッカ』(昭15)
ヒッチコック作品。何の予備知識もなく観たので、お化け屋敷の幻想譚みたいな前半から、現実的?な方向への転換に面喰らったが。屋敷の内部は美しく。仮装(仮面ではない)舞踏会のシーンも良かった。私的にナンバーワンの衣裳は、冒頭の肥ったおばさんが着たシースルードレス。

●映画『勝手にしやがれ』(昭34)
嗚呼。やる気があるのか無いのか、映像も音楽もメインの役者でさえも、鮪でもぶつ切りするみたいに扱う感じが痛快。
切られた心も肉体も、時を経るにつれ余計な柵や枷が削がれ、軽やかになってゆく。景色が動向が、たとえ夜でも闇でもハレーションの如く眩しく刻まれる。

●ドラマ『ウーマンドリーム』(平4)
裕木奈江演ずる田舎娘がスターに…という話だが。観衆はどこ?と思うほど脚光浴びる場面を見事に斬られ、内幕の話が少人数で小演劇的に綴られる。スターの主観ってこんなか?とシュールな気分に。佐藤友美・春川ますみ中条静夫が現れると画面から昭和が薫りだす。

●映画『緋色の爪』(昭19)
ホームズの映画。殺人事件の犯人を「怪物」と信じこむ、直接の関係者以外はどこか暢気な田舎町の人々、ホントに怪物かしら?と思わせる幻想的な描写、全員怪しく美味しいメインキャラ…リアリティーは兎も角、ムードやメリハリある展開が心地好い。ドジなワトソンも愛らしく。

●映画『囀る鳥は羽ばたかない』(令2)
R指定のBLなので注意。アニメにボカシ入るの初めて見た(笑)。極道の割に喋り過ぎ?人懐こい?とは思うが、怪奇な程のハードさと弛さの中に男の切なさ(と可笑しみ)が光る。
H ZETTRIOのジャズにも酔わされ。続編が決定してるが、ここで終結と捉えるのも良いかも?


©️2021TSURUOMUKAWA

音楽を聴く<15>

●沢知美『コンプリートシングルズ』(昭42~47)
芯ある声だが低血圧な趣。ヘッドホンで聴くと下方で寝そべっているみたいに感じる。前半は色香よりモデル的な品性が光り、「すすきの」とか世俗的なテーマにも高級感が。後半は酒量を増した風に凄味を増す。僅か5年ながら流行歌の変遷も感じられる一枚。

奈良光枝『スター☆デラックス』(昭15~30)
全編SP盤だけども、昭和30年頃の曲になるとノイズもなくライヴ感溢れ……シンプルな編曲の『シクラメン咲けど』は特に、沁みる。
主に古賀政男作品で哀感漂わすイメージが強いが、服部良一による幸福な『恋の山彦』、シノワズリな『翡翠の曲』も印象深い。

飯島真理"Rose"(昭58)
坂本龍一プロデュース。『まりン』しか知らなかったので無難にカワイイ盤と思いきや。ちゃんと?教授色。
全作曲は飯島だが、その描写もボーカルもちゃんと?狂気とシュールさとある種の純粋さを孕み。もしや、細野晴臣における戸川純に匹敵するカップリングなのか?と思ったり。

岩崎宏美『戯夜曼』(昭60)
意味ありげな題名が並ぶが、アダルトでデカダンな世界を期待すればやや肩透かし。わりあい年相応、煌びやかでポップで、アイドル的と言える曲もある。そして宏美さんは、本牧バーで酔ってもペルシャで戯れても、気高さを失わず眩しい。寧ろ俗世を俯瞰で眺めるかのよう。

スウィング・アウト・シスターカレイドスコープ・ワールド』(平元)
プロデューサーが谷村有美と仕事したことある人物なのも合点がゆく、89年らしいお洒落さ、ポップさ、厚み。明と暗とが自然にある。
でもベスト盤聴いた大昔も今も、一番好きな曲はボートラの『コニーアイランドマン』だったりして。


©️2021TSURUOMUKAWA

尾崎薫『光』(令元)

f:id:mukawatsuruo:20210210125330j:plain

関西を拠点に御活躍のジャズベーシスト・尾崎薫さん初のリーダーアルバム。メンバーは全曲、
久米田廣道=サックス
野間由起=ピアノ・キーボード
尾崎薫=ベース
松本大=ドラムス
のカルテット。

収録された10曲すべてに、本人によるみじかい文章(連作で物語をなす)と、吉崎加奈さんのイラストが添えられており。これがまた、歌詞カードサイズで留めるには惜しい、立派な絵本。といって音楽を押し退けはしない、程好い存在感。

1曲目『境界線』は、国と国に非ず、別の世界とのボーダー、とのこと。なるほど確かに、規則的でないコード進行で紡がれた境界線は、足もとの石段がふいになくなるような浮遊感、あるいは蒟蒻みたいな弾力をもち、ゾクゾクさせてくれる。

だがそれは序章。この盤の醍醐味は境界線を越えてから。曲と同時進行で異界(のような、案外そうでないような?)の冒険譚を読み進めるうち……聴覚と視覚それぞれ別で捉えていることが、だんだん距離をちぢめてゆき、ついには同質に近いものとなったので、驚いた。
はじめは「コードがリズムがソロパートが」等と、理屈を付けたがっていた私の硬い頭が、しだいに溶けて頗るシンプルな感覚だけとなり、調べと語りとを、童の如く受けとめる。楽曲には七色や金銀の色彩、森林や海や星々の匂いが溢れ、言葉とビジュアルには熱くもクールに、地から天へと繋がる鼓動と波動、喜怒哀楽あわせもった余韻が宿る(上質であれば必ずそうなるというものでもないだろう。異ジャンルの組合せは下手すれば相殺し合ってしまう可能性も孕むが……ここでは見事な相性)。しまいに私はジャズという音楽カテゴリーさえ痛快なほど忘れてしまったし、突拍子ない筈の世界観も、とてもナチュラルな森羅万象の風合いに感じた。

演奏で特に印象的だったのは久米田さんのサックス。ジャズらしい色気や渋味が良い意味で抜けていて、とても瑞々しく、伸びて、響いていた。ハーメルンの笛吹きじゃないけれども、不思議に誘われて連れて行かれそうな音色であった。
演者の皆さんが現場において曲のコンセプトをどこまで意識されていたのか、興味のわくところ。

BOOTHという通販サイトで販売されているようです。
御本人、ユーチューブ、フェイスブック、インスタグラムもされています。


©️2021TSURUOMUKAWA

音楽を聴く<14>

山口美央子"NIRVANA"(昭56)
主にアイドルに書いた作曲家としての側面に近い明朗さが光る。でもやはり井上鑑との共同アレンジは、ちょい隣の中国から果ては涅槃まで、自在に飛びゆく(私的にはエッジーな"Nirvana"や『秋波』がやっぱり好き)。声がコケティッシュでいて透明で、楽曲との相性は運命的。

岡本舞子『ハートの扉』(昭60)
全作編曲山川恵津子! 煌びやかで、陽の印象なのに泣ける。
歌手は当時14歳! 難易度高いメロもこなし、レトロがかった阿久悠の詞も成立させる安定感。
そう、基本は阿久とエッジーな山川とのアンバランス感、岩崎宏美でもない渡辺満里奈でもない世界観を楽しむアルバム。

伊東ゆかり"MISTY HOUR"(昭57)
林哲司プロデュース。単に「シティポップやってみた」でなく、ゆかりさんの慎ましやかなボーカルに沿い、どこかオールディーズ的な温りも感じさせる。
一番若手のEPO作曲『告白』は尖っていつつアダルトで好き。ムッシュの直球ジャズ『ナイト・ミラージュ』もゾクゾク。

●ジョン・グレゴリー"A MAN FOR ALL SEASONS"(昭49)
神聖さを薫らす世界観と、市井または都会のムードとを、インストながら割と短いスパンで行ったり来たり。当り前だけど市井になると70年代の空気と色が溢れだし。特に"Jaguar"の生物みたいにうねるストリングスと、気怠く燻るようなリズムは堪らない。

松原みき"LADY BOUNCE"(昭60)
向谷実らによる、歌手向けでないメロとコードの鎖に蹂躙されちゃう……と見せかけ、実は如何なる縛りも彼女には衣裳であり。どんな男もシチュエーションも逆に押し倒し、悦楽を骨まで貪る。我々は只受身で翻弄される。
言葉選びも一切の無駄のないオートクチュール。見事!


©️2021TSURUOMUKAWA