武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

音楽を聴く<10>

徳丸純子『青のないパレット』(昭58)
全編曲、清水信之。全体は意外とセピア寄りの旧き品よき、明朗さと陰影が半分ずつのアイドル像が丁寧に造られた印象。
でも私的には清水氏らしいエッジの効いた『ガラスの靴はいらない』等がツボ。徳丸さんの声質もベストに近い相性で眩しい異境をわたりゆく。

●村田有美『卑弥呼』(昭56)
矢野顕子曲提供、で検索したら出た。全く知らなかった。囁きから絶叫迄実に七色の声だが、総て音程を外さない。演技というより音としてニューウェイヴの楽曲(プロデュース清水靖晃)と相性抜群に共にある。躁鬱のフリした冷徹なカップルの音楽実験或いは舞踏、なのか?

原日出子『約束』(昭56)
この人も歌手として実に勿体無い存在(劇団四季研究生がキャリアスタートだそう)。河合奈保子っぽい清らかで丁寧な歌。曲は松本隆×筒美京平コンビによるストーリー色の濃い和ボサでキャラにもなじむ。
他にもシングル数枚出たようだけど現在CDで聴けるのはこの曲のみ?

池上季実子『あなたなら』(昭50)他
伸びのよい裏声。
16歳で歌った松本隆作詞『あなたなら』はカケオチソングで「涙で濡れたブラウスが花嫁衣裳」ときた。
25歳で歌ったなかにし礼作詞『幸福の階段』は「神様が階段揺すって振り落とす」ときた。5分の長尺で1コーラス毎上るキーがスリリング。

坂本スミ子『おスミのラテン・ヒッツ』
'60年代音源。「ラテン=豪快・鷹揚」という安直なイメージに留まらず、曲が陰でも陽でも粘りつく感触をもたせるとこがリアル。熱帯夜の微睡みの如くメロと和音がうねる『シー・セニョール』、敢えて静謐なボサにした『ベサメ・ムーチョ』等お気に入り多々。


©️2019TSURUOMUKAWA

音楽を聴く<9>

●篠ヒロコ『悪い遊び』(昭45)他
女優業よりも、いずみたく門下からの歌手デビューが先だったとは! アダルティーと青春の間を見事に歌いあげている。
リリースは長く続いたし、ドラマ『金妻』では歌唱シーンもあったそうだから、歌への愛はあるよね? せめて纏まったベスト盤を出して戴きたいもの。

ゲルニカ『改造への躍動』(昭57)
歪んだSP盤の流行歌、近代~現代音楽、テクノポップ……等の狂おしき融合。波動を総て受け止め怪演で応える戸川純。楽曲が戸川を寄せたか戸川が楽曲を寄せたか? 不明だが。何にせよゲルニカを私はあまり聴かない。聴くと他の大概の音楽がつまらなくなる気がして。

坂田晃一『テレビドラマテーマトラックス2』
殊に70年代邦楽のメランコリーと郷愁の象徴か、結晶体のようなエバーグリーンの存在と思う。詞どころか歌手名までをも切なく響かす。歌声が石川セリに限らず少し異国の人に感じられるのも趣深い。
ところでドラマのデータを読むとどれも観たくて堪らん!

朝丘雪路ゴールデン☆ベストVol.2』(昭33~37)
ジャズでもラテンでもムード歌謡でも、男性に負けぬ声の重量感を出すかと思えばちゃっかり娘役の顔に戻ったりヅカも仰天の婀娜っぽさがあったり……
霧か煙草の如く漂わす吐息のテクニックが特に絶品だと思う。乙女の時も女豹の時も、映える。

寿美花代寿美花代とともに』(昭36~37)
宝塚トップ時代。しっとり聴かせる『ビーナス』から興奮の頂点『華麗なる千拍子』迄、歌劇役者の盤ならではの緩急と臨場感に姿なくとも胸躍る(編曲は前田憲男他)。「男」役に固執せぬ風な声はどんなテンションの曲も茶目っ気を含ませ優しく包み込む。


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音楽を聴く<8>

ニャンギラス『最初で最後』(昭61)
おニャン子クラブ内の所謂色物ユニット。とは言えかっ飛ばしているのはシングル曲ぐらいで、他は夏終盤のリリースに合わせたアイドルナンバーがならび時に切なくさせられたりも。
樹原亜紀って良い素材だと思う。渋谷系の人とかと組んだらきっと面白かったろう。

西村知美『天使時間』(昭63)
今更だけど西村知美が歌うのを想定して曲が書かれているのに感動する。只簡単なメロをという事でなく(細野晴臣大村雅朗は手加減無いし)。ファンタジーやSFと児童唱歌を織り交ぜた風な世界観が大正解。色恋は要らないのかも?
サエキけんぞうの詞が予想外に嵌る。

●ラジ『真昼の舗道』(昭55)
テクノな音使いよりも、シャンソン風味の詞を軸にタンゴ・クラシック・オールディーズ……と多彩な曲調で攻めた所が面白い。A面は手堅く、B面は個性強め?
私的には『真昼の舗道』~『霧の部屋』の痛切な流れが好き。矢野顕子作『みどりの声』のやさぐれ加減も癖になる。

いしだあゆみいしだあゆみ』(昭56)
ティンパンアレーの次はパラシュートとのタッグ。歌謡曲とニューミュージックとが各々傷つけ合わずしかし躊躇わず真髄を貫く様子は、安易な企画モノでない活け花のような存在感を薫らせる。
作詞は岩谷時子ユーミンユーミンも結構色香と情念の焔を見せる。

●荒砂ゆき『夜のメカニズム』(昭45)他
本業は女優らしい。台詞はきれいな声で話すのに歌に入った途端、愛の脱水症状って感じのハスキー声に化けたりする。音域も広いし、歌手業の短さは惜しい。
ときにデビュー曲はウッドベースソロで渋く始まるが、歌謡曲でそういうの殆ど無いのでは? 新鮮。


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音楽を聴く<7>

ハイ・ファイ・セット"COLLECTION"(平元)
2枚組のライヴ盤。代表曲、満遍なく選ばれたアルバム曲、更には前田憲男編曲によるエリントンメドレー等、サービス満点。クールな技巧と豊かな叙情を客席気分で満喫。
私的には山本夫妻デュエットの"OH! LUCKY LADY"が沁みた。

●操洋子『嵐の夜は二度来ない』(昭45)他
青江三奈と比較されるだろうけど。青江が人生を俯瞰で見るタイプとすれば操はなんたって藤本卓也門下、常に自らが血飛沫をあげる。ラテンのリズムで生死を彷徨う『嵐の~』等は特に彼女の個性が活きる。クイーカの音さえも何やら不穏な鼓動にきこえてくる。

●じゅん&ネネ『決定版』(昭43~47)
謡曲然と絞りあげる歌い方にまんま沿う曲も良いが、仏蘭西伊太利等欧風エッセンス満載な楽曲との合わなそで嵌る瞬間に快感。ソースがチンクエッティ『雨』の宮川泰作『初恋の頃』だとか……ヅカカップル風(だが湿度高め)な『星の舞踏会』も彼女らならでは。

松本伊代"REVIEW"(昭61~63)
オトナ路線で纏めたベスト盤。川村真澄林哲司船山基紀松本伊代という四者の、他で見ないメジャーから一歩引いた風な静謐さ、ビーズを編むような繊細さ……透明過ぎて、でも秘密めいて、哀しい。この時期はジャケ写も凛とした表情の美麗な物が多い。

ザ・リリーズ『恋に木枯し』(昭51)
合唱の如く折目正しい声は「み○なのうた」で採用されそうな『ニャン子とLOVE LETTER』とかが映える一方で、ディスコ調『恋人通り』『恋は魔法』の格好良さも消化しており驚愕。挙げた3曲共作編曲は萩田光雄。詞も森雪之丞伊藤アキラで遊び心が。

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音楽を聴く<6>

●森山加代子『しんぐるこれくしょん』
'70年代の歌唱。新たに開拓したサンバ路線、往年の洋楽、そして酒と煙草の似合うミディアム歌謡(西田佐知子っぽい感じ)……どのジャンルも、年季を入れた重みと軽快さを伴い響く。
私的には単調ゆえに説得力の要りそうな『悲しきインディアン』が印象深い。

●園まり『園まりデラックス』
裏声というだけで異次元めいたものを覚えるが、それで艶めく情緒を自在に表されればもはや恍惚の極み……
ときに昔の動画を観たが、か弱げな趣でいてビッグバンドを完全に牽引する姿に驚いた。ムード歌謡の「一見被虐的だが実は屈強で凛々しい」様をある種最も象徴する存在。

池田聡"SWIMMER"(平元)
これだ。悲哀や裏切りさえ夏の清涼剤、これぞ池田聡
タイトルチューンが最も象徴的か。泳ぐ唄って数ある中で本作のエロな暗喩とクールさは格別(及川眠子作詞)。
反して、温かな言葉をジゴロの殺し文句宜しく口にする曲たちも又趣深い(え?そんな曲無いって?)。

ザバダック"ZABADAK"(昭61・62)
1st2ndを併せた盤。四半世紀ぶりに聴く。
ケルトなようで無国籍な楽曲群……性別も消したユニットと思っていたが。少なくともこの盤はニューウェイヴな重低音ゆえか上野さんの執筆が少ないからか存外、とても少年もしくは男性的。吉良氏の声が輝く。

高井麻巳子"Message"(昭63)
4thでラスト。今井美樹的な現実味と解放感を出そうとした風にも見受けられるが、唄声は意外に引きが強く、OLに扮した姿や「恋わりと多き女設定」さえも、コスプレでなく妄想でなくさりとてリアルでもない、まるで違う星の一幕みたいに感じさせてしまう。


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音楽を聴く<5>

●二葉あき子『フランチェスカの鐘』
声楽出身の流行歌手が多くいた中で最も演技派なのでは?「二葉あき子と知れずとも良い」とばかりに曲により像を見事に変えて見せる(ただ低音で凄む女を演じる様子は少しぎこちなく可愛い)。
好きなのは『村の一本橋』。和ジャズの奇怪な波に乗りつつ演じるは村娘。

●津村謙『SP盤再録によるヒットアルバム』
『リル』だけに非ず。チャイナな演奏なのに舞台がロシアの『マルーシャ可愛いや』や、ジャパネスクな民謡調『月夜の笛』等々、異国(又は自国)情緒をも通り越し寓話の域に踏み込んだ曲がこの上なく映える声。後年になるほど個性が極まっていたのでないか?

渡辺真知子『フォグ・ランプ』(昭53)
豪奢な印象だった3rdに較べ2ndは内省的な曲が多い。デビュー時より忙殺されていたろう日々にふと立ち止まる風な。「誰も私を見ないで」「私は逃げた鳥」とか、素で仰ってます?と今更要らぬ心配を。声は強靭なので少々演歌魂も薫った切なさが興味深い。

芳本美代子"I'm the one"(昭62)
当時18にして正統アイドルから脱皮を図る。大村雅朗によるポジティヴポップ"Kiss The Sky"、エスニックな『フェリアの娘』、オールディーズ調が意外な久保田利伸作"Real Time"等予想せぬ展開が次々と。全作詞・戸沢暢美。

久保田早紀『ネフェルティティ』(昭58)
活動後期の盤はCD生産が少ないが忘れてならぬ名盤揃い。本作は編曲若草恵。南国から北欧……そして東京と分散した舞台を選び、詞の女性像も神々しき存在から少女、蓮っ葉な佇まい迄演じるが破綻なく、凛々しき1枚。出色はラヴェルボレロ調の『砂の城』。


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音楽を聴く<4>

吉田美奈子"FLAPPER"(昭51)
自作曲は少ないが、当時のファミリー勢揃いで豪奢なサーカスの如く真摯にふざけていて、乙女なポップスでもやさぐれ歌謡曲風味でも、後年のような仙境を思わせる曲でも、美奈子さんは平等に、メインボーカルと言うより楽器の一種として、笑顔でいる気がする。

木之内みどり『横浜いれぶん』(昭53)
腹から歌うよりも、音域を狭め、まるで即興で呟くかのように歌を紡ぐべき人と思う。アルディか森田童子みたいな?
しかしフォーク楽曲のみならずフュージョン寄りの"Yellow&Blue"や『まだ手探りしている天使』でも魅力が発揮されるのが興味深い。

柴咲コウ『蜜』(平16)
「歌わせたら思いの外巧かった」「女優業(ルックス)抜きに考えても余りある、哀感をふくんだ存在感」「ゆえに、クリエイトの熱量も上がる」という流れは、キャラこそ違うが薬師丸ひろ子と似た宿命の色を感じる。
松井五郎の言葉遊びが愉快な『浮雲』が私的にスルメ曲。

ハイ・ファイ・セットジブラルタル』(昭62)
高尚と低俗、両極をゆく虚構のアッパークラスの孤高・享楽・退廃がマーブルとなり、シンセ中心の編曲の中で時世不明に薫る……何を唄っても洗練ぶりを崩さぬハイファイも、ここでは完成度を逆手に取り毒気色気、絢爛さのループする舞踏会を繰り広げ。

稲垣潤一"NO STRINGS"(昭60)
アルバムで聴くと、だんだん稲垣でなく、知らぬ異国の少年が唄うように思えてくる。彼を前に手ごわい大人が集い手練手管使っても、これ作ったの全部彼だっけ? と感じる。
殊にこの盤はジャケ写のクールさに反し若さが泉の如く溢れ止らない、という印象。


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