武川蔓緒(つる緒)の頁

みじかい小説を書きます。音楽や映画の感想つぶやきます。たまに唄います。成分の80%は昭和です。

音楽を聴く<7>

ハイ・ファイ・セット"COLLECTION"(平元)
2枚組のライヴ盤。代表曲、満遍なく選ばれたアルバム曲、更には前田憲男編曲によるエリントンメドレー等、サービス満点。クールな技巧と豊かな叙情を客席気分で満喫。
私的には山本夫妻デュエットの"OH! LUCKY LADY"が沁みた。

●操洋子『嵐の夜は二度来ない』(昭45)他
青江三奈と比較されるだろうけど。青江が人生を俯瞰で見るタイプとすれば操はなんたって藤本卓也門下、常に自らが血飛沫をあげる。ラテンのリズムで生死を彷徨う『嵐の~』等は特に彼女の個性が活きる。クイーカの音さえも何やら不穏な鼓動にきこえてくる。

●じゅん&ネネ『決定版』(昭43~47)
謡曲然と絞りあげる歌い方にまんま沿う曲も良いが、仏蘭西伊太利等欧風エッセンス満載な楽曲との合わなそで嵌る瞬間に快感。ソースがチンクエッティ『雨』の宮川泰作『初恋の頃』だとか……ヅカカップル風(だが湿度高め)な『星の舞踏会』も彼女らならでは。

松本伊代"REVIEW"(昭61~63)
オトナ路線で纏めたベスト盤。川村真澄林哲司船山基紀松本伊代という四者の、他で見ないメジャーから一歩引いた風な静謐さ、ビーズを編むような繊細さ……透明過ぎて、でも秘密めいて、哀しい。この時期はジャケ写も凛とした表情の美麗な物が多い。

ザ・リリーズ『恋に木枯し』(昭51)
合唱の如く折目正しい声は「み○なのうた」で採用されそうな『ニャン子とLOVE LETTER』とかが映える一方で、ディスコ調『恋人通り』『恋は魔法』の格好良さも消化しており驚愕。挙げた3曲共作編曲は萩田光雄。詞も森雪之丞伊藤アキラで遊び心が。

©️2019TSURUOMUKAWA

音楽を聴く<6>

●森山加代子『しんぐるこれくしょん』
'70年代の歌唱。新たに開拓したサンバ路線、往年の洋楽、そして酒と煙草の似合うミディアム歌謡(西田佐知子っぽい感じ)……どのジャンルも、年季を入れた重みと軽快さを伴い響く。
私的には単調ゆえに説得力の要りそうな『悲しきインディアン』が印象深い。

●園まり『園まりデラックス』
裏声というだけで異次元めいたものを覚えるが、それで艶めく情緒を自在に表されればもはや恍惚の極み……
ときに昔の動画を観たが、か弱げな趣でいてビッグバンドを完全に牽引する姿に驚いた。ムード歌謡の「一見被虐的だが実は屈強で凛々しい」様をある種最も象徴する存在。

池田聡"SWIMMER"(平元)
これだ。悲哀や裏切りさえ夏の清涼剤、これぞ池田聡
タイトルチューンが最も象徴的か。泳ぐ唄って数ある中で本作のエロな暗喩とクールさは格別(及川眠子作詞)。
反して、温かな言葉をジゴロの殺し文句宜しく口にする曲たちも又趣深い(え?そんな曲無いって?)。

ザバダック"ZABADAK"(昭61・62)
1st2ndを併せた盤。四半世紀ぶりに聴く。
ケルトなようで無国籍な楽曲群……性別も消したユニットと思っていたが。少なくともこの盤はニューウェイヴな重低音ゆえか上野さんの執筆が少ないからか存外、とても少年もしくは男性的。吉良氏の声が輝く。

高井麻巳子"Message"(昭63)
4thでラスト。今井美樹的な現実味と解放感を出そうとした風にも見受けられるが、唄声は意外に引きが強く、OLに扮した姿や「恋わりと多き女設定」さえも、コスプレでなく妄想でなくさりとてリアルでもない、まるで違う星の一幕みたいに感じさせてしまう。


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音楽を聴く<5>

●二葉あき子『フランチェスカの鐘』
声楽出身の流行歌手が多くいた中で最も演技派なのでは?「二葉あき子と知れずとも良い」とばかりに曲により像を見事に変えて見せる(ただ低音で凄む女を演じる様子は少しぎこちなく可愛い)。
好きなのは『村の一本橋』。和ジャズの奇怪な波に乗りつつ演じるは村娘。

●津村謙『SP盤再録によるヒットアルバム』
『リル』だけに非ず。チャイナな演奏なのに舞台がロシアの『マルーシャ可愛いや』や、ジャパネスクな民謡調『月夜の笛』等々、異国(又は自国)情緒をも通り越し寓話の域に踏み込んだ曲がこの上なく映える声。後年になるほど個性が極まっていたのでないか?

渡辺真知子『フォグ・ランプ』(昭53)
豪奢な印象だった3rdに較べ2ndは内省的な曲が多い。デビュー時より忙殺されていたろう日々にふと立ち止まる風な。「誰も私を見ないで」「私は逃げた鳥」とか、素で仰ってます?と今更要らぬ心配を。声は強靭なので少々演歌魂も薫った切なさが興味深い。

芳本美代子"I'm the one"(昭62)
当時18にして正統アイドルから脱皮を図る。大村雅朗によるポジティヴポップ"Kiss The Sky"、エスニックな『フェリアの娘』、オールディーズ調が意外な久保田利伸作"Real Time"等予想せぬ展開が次々と。全作詞・戸沢暢美。

久保田早紀『ネフェルティティ』(昭58)
活動後期の盤はCD生産が少ないが忘れてならぬ名盤揃い。本作は編曲若草恵。南国から北欧……そして東京と分散した舞台を選び、詞の女性像も神々しき存在から少女、蓮っ葉な佇まい迄演じるが破綻なく、凛々しき1枚。出色はラヴェルボレロ調の『砂の城』。


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音楽を聴く<4>

吉田美奈子"FLAPPER"(昭51)
自作曲は少ないが、当時のファミリー勢揃いで豪奢なサーカスの如く真摯にふざけていて、乙女なポップスでもやさぐれ歌謡曲風味でも、後年のような仙境を思わせる曲でも、美奈子さんは平等に、メインボーカルと言うより楽器の一種として、笑顔でいる気がする。

木之内みどり『横浜いれぶん』(昭53)
腹から歌うよりも、音域を狭め、まるで即興で呟くかのように歌を紡ぐべき人と思う。アルディか森田童子みたいな?
しかしフォーク楽曲のみならずフュージョン寄りの"Yellow&Blue"や『まだ手探りしている天使』でも魅力が発揮されるのが興味深い。

柴咲コウ『蜜』(平16)
「歌わせたら思いの外巧かった」「女優業(ルックス)抜きに考えても余りある、哀感をふくんだ存在感」「ゆえに、クリエイトの熱量も上がる」という流れは、キャラこそ違うが薬師丸ひろ子と似た宿命の色を感じる。
松井五郎の言葉遊びが愉快な『浮雲』が私的にスルメ曲。

ハイ・ファイ・セットジブラルタル』(昭62)
高尚と低俗、両極をゆく虚構のアッパークラスの孤高・享楽・退廃がマーブルとなり、シンセ中心の編曲の中で時世不明に薫る……何を唄っても洗練ぶりを崩さぬハイファイも、ここでは完成度を逆手に取り毒気色気、絢爛さのループする舞踏会を繰り広げ。

稲垣潤一"NO STRINGS"(昭60)
アルバムで聴くと、だんだん稲垣でなく、知らぬ異国の少年が唄うように思えてくる。彼を前に手ごわい大人が集い手練手管使っても、これ作ったの全部彼だっけ? と感じる。
殊にこの盤はジャケ写のクールさに反し若さが泉の如く溢れ止らない、という印象。


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音楽を聴く<3>

沢たまき『ベッドで煙草を吸わないで』(昭47)
熟成した唄声とドラマの姐御キャラで人気に。
この盤は当時ありがちな流行歌カバー(自身の曲含む)と侮り聴けば。過ぎし日を湖底で永劫語り続けるような音色はオリジナルを消し去り(サントワマミーの咀嚼とか見事)。この時代の至宝たる歌い手だ。

奥井亜紀“Wind Climbing”(平7)
2nd。伸びやかで機微ある裏声と大村雅朗・鶴来正基らによるビビッドな音色との合体。1stはやや内向的な印象だったが此方は一転し世界一周するような、百花に埋れるような。寓話における光と闇の両極をゆく(詞は別に幻想的でないのに)濃密さ。

久保田早紀『エアメール・スペシャル』(昭56)
デビュー1年半で4枚目(!)の盤。『異邦人』より編曲を手掛け続けた萩田光雄はこれで最後。先行シングルが明朗アイドル路線(CM曲でイメージに沿ってか)で危うげに思えたが、アルバム開けば当人の芯は不変。明朗さが却って他の陰翳を濃くした。

ジェーン・バーキン“Versions Jane”(平8)
囁きのミューズを見出したゲンスブールはこの盤の5年前に逝去。彼による楽曲を総て異なる編曲者で綴る。90年代の音をジェーン×セルジュは泰然と或いは気怠く着こなし、王座或いは安いベッドに横たわる。二人は時を拒まず且つ、不動。

大貫妙子"SIGNIFIE"(昭58)
久々に聴いた。この時期の大貫さんはどのアイドルよりも天然の愛らしさがあり、どのアーティストよりもトンガっていたかもしれない。
音はテクノで軽めと思っていたが、存外に厚い抱擁を感じ(リマスターでもないのに)……『夏に恋する女たち』で泣けるとは。


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音楽を聴く<2>

●デビッド・ベノワ『ジス・サイド・アップ』(昭60)
まるで全曲が異なる映画のサントラのよう。壮大なのもあれば、コメディやハードボイルドも。どれにせよ聴き手を選ばぬ包容力にうっとり……してたらラスト、CDのみ収録のピアノソロ曲で突如流転する内的宇宙が展開され。バンジーした気分で終る。

由紀さおり『銀座万葉集』(昭49)
銀座を舞台に綴る十二帖。前田憲男猪俣公章・吉田旺……と多彩な作家陣により、和も洋も息づく街にて真昼をゆくおぼこい娘から明けぬ夜を歩む女迄描かれる。総て見事に唄い(演じ)きる由紀25歳。
夜は山口洋子の『流れ花』、昼は山川啓介の『晴海通り』が好き。

ヴィンス・ガラルディ『ピーナッツ・グレイテスト・ヒッツ』(平27)
双子でなくスヌーピーのアニメBGMだが、至極自然体のポップス寄りジャズ。
愛らしきマンネリと深いカオスをあの芳しき描線で抱え褪せぬ終りなき物語の、明らかに大人向けな苦味甘味、悪戯心と品格に見合う音楽はまさに、これ。

阿川泰子"SUNGLOW"(昭56)
「スタンダードの歌のお姉さん」と勝手に思っていたが。ほぼ巷に知られぬ曲(ほぼ口ずさめぬ難曲)を唄い、大半松岡直也&ウィッシングによるサンバ・AOR・レゲエ……縦横無尽な演奏と戯れあう。甘く見ていたらカカオの濃厚さに驚き、そしてやめられなくなる。

鈴木重子『ウインズ・オブ・マイ・ハート』(平9)
まさに、「心の風」吹く島である。声は微風にそよぐ髪でもあり、疾風を受けとめる大樹でもある。ケニー・ワーナーによる自在なコード進行が色彩を溢れさせ、当時にしてはやや古い?キーボードの音色も効果的で……天候とおなじ平穏と激しさに涙する。


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音楽を聴く<1>

高井麻巳子『いとぐち』(昭62)
基本統一感ある造りだが。高橋幸宏作曲(!)のテクノ寄りな『こわれかけたピアノ』から、ありそうで少ない和テイスト薫る『風鈴物語』への異色な流れが堪らない。
木綿のハンカチーフ』を更にシビアにした風な『約束』もいい。純朴な声に沿って悲恋がリアルに。

吉田真里子『詩華集』(昭63)
武部聡志プロデュース。海鳥の声をサンプリング?した『オルゴール』が特に好き。いつも端麗なアレンジの中に意外とヘンな音を時折混ぜこむのも氏の魅力。斉藤由貴と時期が被るので似通う所はあるが、歌声は二番煎じでなく1stにして天然でない確たる意志を薫らす。

今井美樹"femme"(昭61)
誰かが「1st以外の今井美樹が好き」と言ったが。馴染みの作家こそ少ないものの十八番のミディアム、お茶目なアップテンポ、陰と陽、夢と現、よそゆきと素顔のバランスが丁度良い言葉と音選び……方向性は始めからブレていなかった。
来生えつこが書いていたとは。

梶芽衣子『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』(昭49)
田園にて、純白レースワンピース姿の梶芽衣子! 少女にも有閑マダムにも思えるビジュアル。
楽曲は更に振り幅広くフレンチアイドル風から凄味をきかせた歌謡曲まで。声も色を変えるが女優ぽくと言うよりは飽くまで歌手として真摯に向き合う印象。

上原さくら+東京ミュージックサロン"FLOWER SOUL"(平9)
渋谷系サウンド+聖子ルーツに相違ないアイドル声……不似合いと思いきや、お花畑を満面の笑顔でブルドーザー乗って突進するイメージが浮び趣深い。
明朗な長調ばかりでなく洋楽カバー"DON'T SPEAK"という妙味も。


©️2019TSURUOMUKAWA